【書評】マーケット感覚を身につけよう(2)

相対取引から市場取引へ

次にちきりんさんは、マーケット感覚の土台となる市場について説明しています。
「社会の市場化」-この言葉は、過去10年間に起こった日本社会の変化と、次の10年間に起こるであろう変化の両方を、最も的確に捉えることのできる話です
ちきりんさんは、この件について就職活動を例に出して説明します。1960年代の就職活動では、同じ村の出身、高校の卒業生などのコネクションを元に就職活動をすることもありました。今でいえばコネ採用のようなもので、これを相対取引とよんでいます。

それに対して、市場取引は全く違います。
市場取引では、学生がリクルートやマイナビなどの企業がインターネットを利用した応募システムを使用して就職活動をします。このシステムを使えば、先生の推薦や親戚のツテがなくても、誰でもどこの企業でも応募できます。つまり、全学生が全企業を相手に就職活動を行うということが可能になりました。

そしてこう述べています。
地方に生まれた人や、有力な先輩や親戚のいない家庭に生まれた人の得られるチャンスは、飛躍的に大きくなったのです。市場は弱者に厳しいとよくいわれますが、むしろ反対に、持たざる者に大きな可能性を与えるのが、市場の特徴なのです。
これについて、私はなるほどなと思う一方で、少し疑問を感じました。というのも「弱者」と「持たざる者」が必ずしもイコールではないからです。「むしろ反対に」と述べているけれど、反対になっていません。これをもう少し整理してみるために、4種類の人間について考えてみます。
  1. コネがあって能力が高い人
  2. コネがあって能力が低い人
  3. コネがなくて能力が高い人
  4. コネがなくて能力が低い人
相対取引では赤字で書かれている人が得をしていて、青字で書かれている人が損をしていました。ところが市場取引では以下のようになります。
  1. コネがあって能力が高い人
  2. コネがあって能力が低い人
  3. コネがなくて能力が高い人
  4. コネがなくて能力が低い人
市場は人を判断する指標を「コネ」から「能力」に変えました。

婚活市場も同様です。「日本中から自分に合った相手を選ぶ」という市場の仕組みに伴って、「よほど嫌な相手以外ならOK」ではなくて「満足できる人を見つけて結婚したい」と考える人が増えました。結果として就職市場同様、一部の人に人気が集中し、マッチングからあぶれる人が出てきてしまったのです。
それについて、ちきりんさんはこう述べています。
就職市場において「就職したいのにできない」人が増えたように、婚姻市場においても「結婚したいのにできない」人が増えているのも、また事実です。
私はこれを読んで市場化というのは、本当にいいことなのかなと疑問に感じます。上記の図だけを見ると、コネ主義ではなくて能力主義になったのだから、いい世の中になったと思う人が多いかもしれません。しかし、実際のところはどうでしょうか?

相対取引の頃は1、2、3番の人が職を持てたし、結婚できていたと思います。ところが市場取引になってからは、1、3番の人のみが職を持てて、結婚できるようになりました。結果として全体のマッチング数は下がっている可能性があります。それが昨今のワーキングプア、ニート問題であり、貧困化するシングル女性問題でしょう。 「結婚なんてせずにもっと働きたい」という女性が働き続けられるようになった反面で、昔だったら結婚していたはずの女性が結婚できなくなってしまったということです。

また、話はそれだけではなく、こうも述べています。
社会の市場化が進むと、これまでとは異なる「ゲームのルール」が適用されるようになります。
そのルールとは、ローカルマーケットの統合とマーケットのグローバル化です。昔なら、「〜町で人気」という基準でしたが、今では「楽天市場で人気」という基準になっています。つまり、ネットを通じて対象となる客が拡大した一方で、ライバルも増えたということです。言語の問題さえ解決されれば、婚活市場もそのようになります。英語が公用語であるフィリピン人女性がネットを通じて外国人男性と結婚するという話は、婚活が市場化されているいい例だと思います。フィリピン人女性にとって、選択できる男性が増えたことは非常に喜ばしいことかもしれませんが、フィリピン人男性にとっては辛い事実だと思います。

こうして考えると社会の市場化が何をもたらしているか明らかです。次回以降に、別の章を読みながら、マーケット感覚を通して見える世界を紹介していきたいと思います。

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